NEWS 2020.01.14  COLUMN

シェアとプライバシー

&AND HOSTEL

case1:KANDA

 

「表現はフラット、心象はソリッド」

この言葉をひとつのテーゼとして心地よい空間を目指しました。

 

地上5階建ての事務所ビルのホステルへのコンバージョンデザインです。

&AND HOSTELブランド、IoTをコンセプトにしたホステルです。

IoT=モノのインターネット化は、モノと人の_関係_が変化することをもたらすでしょう。

IoTがコンセプトであるホステルについて設計するとき、私はその手触りの無さが不安でした。ですから、運営側から提示された「世界とつながるホステル」というコピーは、少し先の未来の想像をかきたてるもので、デザインの手が進んだのを覚えています。

 

モノではなく_関係_という茫漠としたものを設計するとき、そこにいる人たちの振る舞いに委ねてしまうのは嫌です。まっさらな空間に椅子を散りばめて、「そこにいる人が自由にリラックスできるようにしました」ということをデザインで言うことは簡単ですが、誰だって、隣に恋人がいるときといないときではその場所の意味が変わってしまうでしょう。

 

ラースフォントリアー監督の「アンチクライスト」という映画を思い出します。

彼の映画はどれも静かな_時に明確な_狂気が潜んでいますが、この映画で映される森の中のシーンは、美しいとは言い難い、うっそうとした自然の中で人間の狂気が描かれています。自然と一体化する建築がフィーチャーされていた時代において、恐るべき存在として描かれる自然の姿に心が後退したことを覚えています。

私は環境や空間をデザインする立場でありますが、デザインの価値は常に相対的であり、やはりまずは人の心ありきでその場所の意味が定義されるのだと認識しました。

 

この建築は、壁や床天井において、フラットな表現を用いています。段差なく仕上げが切り替わったり、塗装の色が切り替わったりしています。サイン計画もペイント仕上げを用いたりすることでフラットなものとなっています。

IoTという手触りのないものを空間において表現する試みです。

各部屋の扉は、寝室、トイレ、シャワー、それぞれ真っ白ではありますが、ツヤの違う塗装をそれぞれに施してあり、異なる空間へ繋がっていることを示唆しています。

 

宿泊業において、ホテルではなくホステルを設計するというのは、デザイナーにとってとても面白い課題です。

一般的にホステルという業態は、シャワーやトイレが共用であったり、知らない人と寝室を共有したり、共用のラウンジが充実しているという特徴があります。ホテルの個室は完結したプライバシーによって成立していますが、ホステルはかなりの部分が半プライバシー/半パブリックな状態にあります。

これだけを聞くとなんだか居心地が悪そうな感じがしますが、よくよく考えてみるとこの業態は日本人に馴染みがあるのではないかと気がつきます。

それは旅館です。旅館では、部屋着であり寝間着でもある浴衣を着て、食事をとり、温泉に行き、時には外へ出て花火を見たりもします。

堅牢な扉に守られた個室に泊まることだけが宿泊ではなく、むしろその半パブリックな状態を楽しむことができるという体験を提供できるのが旅館という業態ではないでしょうか。ホステルという業態もそれにならうことができると思うのです。

 

シェアリングエコノミーという言葉が社会に影響力をもちつつある現代において、プライバシーとパブリックの境界をどうデザインするのかは、宿泊業の大きなトレンドになっています。

ホステルという業態はまさにそこにデザインの主眼があり、テーマになります。

宿泊費が安いから水回りが共用でもいいか、という価値観ではなく、住む場所として積極的にシェアハウスを選ぶように、泊まる場所としてホステルを選ぶ。半パブリックな場所、公私がよりフラットに扱われる場所で、多角的でソリッドな体験を獲得できる場所になってほしい。

 

このブランドの一連のデザインに関わりながら、そんなことを考えています。

 

H.Yamazawa

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